11 May 大判写真が面白い 大判カメラを真面目に使いだして、思った以上に使い勝手が良いものだったというお話。 一昨年の年末に、ユニクロにヒートテックを買いに行くつもりで出かけたのに木製大判カメラを買って帰るという珍事がきっかけで僕の手元に大判カメラがやってきました。 入念に事前情報を調べ尽くし、現物を触ってイメージと比較し、さらに熟考を重ねて購入、というのがいつもの僕のパターンなのですが、この時ばかりは完全に衝動買いでした。 いつか大判カメラを使いたい、という憧れはフィルム写真を始めた当初から持っていたのですが、実際に所有して使うことは念頭になく、「いつかは…」と漠然と思っていたものが突然目の前に現れて完全に持て余しました。 買ったはいいものの使う場面も撮りたいものも思いつかず、ジュラルミンケースの中に眠ったままで1年放置、たまに広げて眺めて悦に浸ってみるものの、やっぱりどう使えばいいものかわからず。 そんなわけで、真面目に使おうと決心して撮り始めたのは今年に入ってからです。 その間なにをしていたかといえば、持ち運ぶための方法を考えたり、必要なホルダーや現像設備を整えていました。 正直、フィルム写真は機材以外にも感材や薬品などお金がかかるものなので、「1コマ何円…」などと考え出すとこのデジタルの時代にとても気楽にやれるものではないと思います。 こと大判にもなると、フィルムにかかる金額や現像コストが相当なものですし、必要になる周辺道具が多い上に入手難度が高く、それらもいい値段のするものなのでトータルで考えると大判写真はかなりお金のかかるものだと思います。 一度にそろえるとなるとハードな支出になりますが、時間をかければなんとか…という感じで、丸1年かけてちまちまと必要用具をそろえていきました。 35mmやメジャーな中判カメラと違って、大判は必要な知識や技術量が段違いに多く、それは写真を撮ることそのもの以外にも、道具の種類や用途、メーカーや歴史等、多方面の知識が必要になると感じています。 それらの情報もなかなか手に入りづらいことが多いので、自分で解析する能力が必要になるので、とにかくいろんなものを見て知識を仕入れるという作業が不可欠です。 このあたりも、時間のかかる要因です。 前置きはこのくらいにして、実際使ってみてどうなんだという話なのですが、これが結構いい感じです。 真面目に写真を”仕上げる”ためのツールとしては、これ以上にないというか、なんならもっと早く手を出しておけばよかったと思っています。 僕はフィルムの現像から印画紙への焼き付けまで一連の作業を行うための暗室を自前で持っているので、その環境があったからこそ享受できるメリット、という前提の話になります。 まず、35mmや中判などのロールフィルムと違い、大判のフィルムは1枚1コマです。 これがとても利点としておおきいです。 35mmや中判は1本を撮りきるまで現像ができないので、撮影から現像に移るまでに時間が空きます。そして、時に1本を撮りきるために惰性でコマを埋めることがあります。 大判は撮影した1コマ単位で現像が可能なので、撮影直後から現像作業に移ることができます。惰性でコマを埋めることがないので、全てのコマに全力を注げます。 撮ってすぐ現像ができるということはその先のプリント作業に移るのもはやくなるということで、つまり撮影からプリントまでのスパンが短くなります。 写真のトライ&エラーはプリントを見た結果から次の撮影にフィードバックすることだと思うので、スパンが短くなることは短期間で試行錯誤ができるということ、言ってしまえばスキルの向上スピードがあがります。わかりやすく言えば、すぐ上手くなれます。 たとえば花のシーズンは短いので、これまでなら撮って現像、プリントしている間にシーズンが終わり、今回の反省は来シーズンに、というのが当たり前でしたが、大判を使うと1シーズン中にこれまでの3シーズン分くらい試行錯誤ができます。やりたいこと、思いついたこと、改善点や反省がめちゃめちゃできます。 1枚1コマのもうひとつの利点としては、複数枚同じコマを撮っておいて、初めに1枚現像し、その結果をみて残りのコマに微調整をかける、ということができることです。 これは大判カメラでは当たり前のことであって最大の利点だと思うのですが、実際やってみるとこれが本当に便利です。 夜間撮影で露出に自信がないとき、とりあえず複数枚撮っておけばまあどうにかなるだろうという感覚、そして本当にどうにかできてしまう現実。 「なんでこうなっちゃうんだろう?」と失敗に頭をひねったまま疑問が解消できず引きずり続けていたこれまでの姿勢が一転、その場で徹底的に向き合えるようになったので、納得のいくまで1コマ1コマに向き合えるようになりました。 撮るコマ全部が本気になったので、撮影も現像もプリントも否応なく本気で取り組まざるを得なくなり、結果として全体を通して写真に向き合う姿勢の本気度が上がりました。 そして、四六時中写真のことを考えるようになりました。 今は写真が面白くてしょうがない。本当に面白いです。 今までの旅のスタイルに大判写真を組み込むことは容易ではなくて、機動力を下げる要因にもなりえることですが、今はそれを上回るモチベーションによって、ウッキウキで大判カメラを持ち歩いています。 旅仕様にするために、道具の選定は独自基準で選定していて、多分一般的な大判ユーザーのスタイルとはやり方が違うと思うんですが、自分のスタイルに合った道具を探していくのもまた楽しい作業です。 大判カメラは時間もお金も体力も使うので、今後すべての撮影を大判カメラに置き換えるという事は無理ですし、時と場合を見極めて35mm、中判と使い分けていくことになると思います。 それでも、できることが格段に増えた、さらにこれから先の選択肢も広がった感覚があって、もしかしたら永遠に完成や終わりが来ないんじゃないか、ずっと試行錯誤し続けるのではないかという気すらしています。 PR